懺悔
はあ、と溜め息を吐いた。
溜め息は白い気体に変わって空に溶けた。
もう二時間になる。
彼女のことだから忘れたということはないだろう。
カチカチと、規則的に時を刻む音がやたらと大きく聞こえた。
彼女が現れるかもしれない駅の出入り口に目を向ける。
以前あそこから現れる彼女は、いつも笑顔だった。
何度目かになる、溜め息を吐いた。
寒い。
薄い着物にマフラーだけでは流石に無理があったか。
先程から雪も降り始めている。
周りはカップルだらけなのに、自分だけ一人というのもかなり痛い。
普段はそんなこと、まったく気にしないのだが。
彼女に非がないとは言わないが、俺が悪かったのは充分承知している。
だから、今日は謝ろうと思っていたのに。
小さく舌打ちをしてみるが、それで現状が変わることはない。
「............ごめんな」
仰ぎ見る空は何処までも黒が続いている。
謝った処で許して貰えるとも思っていないが、
そこら辺は自己満足だ。
信じるも信じないも、許すも許さないも彼女次第だ。
強制はしないし、できない。
もう彼女が来ることはないだろうに、何時までも待ち続ける自分が滑稽だった。
思わず少し苦笑する。
許されなくても信じて貰えなくても良いけれど、
彼女に嫌われることを異常なまでに畏れる俺がいた。
尤も、もう遅いのかもしれないが。
彼女が去った跡に残ったのは、痛みと彼女への気持ちだけだった。
どうしようもないくらい、どうにもできないくらいに
彼女が好きだ。
そう伝えることすら、もう無いのだろう。
「ごめんな」
もう一度だけ呟いて、自嘲気味に笑った。
2000hit 六夢
それっぽい言葉で12のお題 07.待ち人現れず
(05.08/01)