forever beautiful memories










「百本の薔薇」

笑う彼はとても嬉しそうで、

とても哀しそうに見えた。




さくさくと、小気味良い音がする。

はあ、と吐く息が白かった。

「そ、結婚記念日」

にこりと笑って、両手に抱える花束を彼は見つめた。

彼の手の中の花は、全て真紅のバラだ。

薄く雪を被ったそれは、とても綺麗だった。

「何時も百本あげてるの?」

「いや、今年は百年目だから年数に因んで。

 なかなか素敵じゃねぇ?百本の薔薇ってのもさ」

どっかの少女漫画みたいだろ、と彼は笑いながら歩を進める。

身長の通り彼の一歩は私よりずっと大きいから、自然に私は少し早足になる。

必死で、歩調を合わせた。

「で、今夜はイチャイチャラブラブって?」

「や............」

半ば私の嫉妬が混じった台詞を聞いた途端、神の顔が曇ったのは見逃さなかった。

少し困ったように笑って、彼は口を開いた。

「もうずっと前に亡くなったよ」

へら そんな擬音が似合う、彼の笑顔。

ああ、そうか。

彼の妻は、ごく普通の人間だったのだ。

知らなかった。ずっと神は奥さんと二人で暮らしているものだと思っていた。

彼の表情はあくまで笑顔。

辛そうだとか、哀しそうと言うより、私自身が見ていて痛かった。

「でも、俺はずっとあいつが好きだよ。

 あいつだけを愛してる」

そう言って、神はまた笑った。

やっぱりその顔は哀しそうだったけど、

とても嬉しそうだった。










「影ちゃん、行かないの?」

彼の背を見送って、すぐ隣に残った彼の影に問う。

普段は彼と同じくらい饒舌なのに、今日は黙っている。

どうやら、いや、やはり私の気持ちは影にはバレているらしい。

彼も影も同じ人物なはずなのに、何故にこうも違うのか。

それもしょうがない話だ。

何故って彼は、自身の妻しか見ていないのだから。

「....大丈夫だよ。私は平気だから」

多分そう言った私の顔も、彼と同じようなものだったのだろうけど。


影も私の前から見えなくなってから、私はため息を吐いた。

彼は別に無理して笑っているわけじゃない。

その思い出に手が届かないことには哀しいけれど、

その思い出が幸せで嬉しいものだったのは確かだから。

彼は彼女のいなくなった隙間を埋める物は必要としていなかった。





彼がこの世で一番愛しているのは永遠に彼女だけ。

その想いはきっと衰えることはなく、

時を重ねる毎に増え、大きくなっていくのでしょう。

思い出とは時が経つ程、美しく美化されるものだから。


尤も、彼の思い出は今以上美化する必要もないくらい、美しいのかもしれないけど。












それっぽい言葉で12のお題 06:白いため息

(05.08/02)