「偶像崇拝主義者へ告ぐ」
何時も通りニヒルに笑って、彼は口を開いた。
「要するに、お前が愛してるのは俺じゃねぇってこった」
そう言って彼は肩を竦めた。
ズボンのポケットに手を入れて、意味もなく少し歩く。
「..なら、私が愛してるのは誰なの?」
そう問うと彼は立ち止まって私の方へと振り返る。
サングラスのせいで彼の表情は見えない。
本当に聞きたいのかとでも言いた気に彼は首を傾げたが、
私は何も言わなかった。
「お前の中の、俺」
短く、しかしゆっくり噛み締めながら彼は言った。
それは私に伝えると同時に、自分自身にも言い聞かせている様にも聞こえた。
一瞬だけレンズの向こうの彼と目が合った。
どうしようもないんだと、彼は笑う。
「お前が愛してるのは、お前がお前の中に造ったMZDって奴。
それは空虚な妄想の産物だ」
何時だって見ているはずなのに見ていない。
造りあげられた彼に恋して目の前の彼と重ねる
触れられる幻に、架空の其れに酔ってしまう
幻と現実のギャップに気が付いた時に気持ちは冷め
幻はいとも簡単に消え去る。
学習しねぇ生き物だ。
「..........そんなこと、ない」
「お前が自覚できてねぇだけさ」
近くにあった椅子に腰掛けると、煙草を吸い始めた。
ネガティブな思想。
「あなたは?」
「同じだよ。俺も」
幻のお前に恋してる。
俺も馬鹿な生物の一人なんだ。
偶像崇拝主義者たち。
その時お前達は、俺は、強大な喪失感に苛まれるだろう。
精々苦しみ悲しめばいい。
そして理解するんだ。
所詮こんな事は一時の余興にしかならないのだと。
「信じるのが怖いだけじゃない」
「聞こえねぇなぁ」
辛うじて耳に届いた言葉を、肯定はできなかったからしらばっくれてやった。
その通りだなんて、俺には言えないし言いたくない。
「あなたのそういう処、嫌いよ」
「それはどうも」
素っ気なく答えて笑ったら、お前が泣き出してしまったから
俺は一度だけお前を抱きしめた。
偶像崇拝主義者達へ告ぐ
(07.05/27)
(05.08/08)