夜は僕を空しくさせる。悲しくさせる。
其れでも色彩に富むあの幻想世界を僕は飛ぼう。飛びましょう。
さあ、貴女もこの手を取ってくださいな。どうぞ僕と行きませう。
あの世界にはきつと怠惰な幸せが在る。
一握の嘘と共に。
そうだ。
返 信
例えば或る一日を何時ものやうに過ごす。飽くまで普段通りの日常。
街を歩き楽しそうに賑わう人々の声に耳を傾ける。
店に並ぶ精巧なギヤマン。ローマ字の異国童話集。
眺めて君と少し咲えれば其れだけで僕は十二分に癒されたのでせう。幸せと謂ふ陳腐な言葉。
然し乍ら其れはあの日迄の話なので或る。
飽くまで切実に。
飽くまで誠実に。
嗚呼! 僕は、僕は君無しでは生きていけなぞしないのに。
三文役者のやうな捻りの無い台詞。 於。
もしも貴女が僕の手の届く程近くでもう一度微笑んでくれるのなら。
僕はそのたった数秒の為に喜んで命でも捨てやう。
稚拙で汚らしいか。笑いたくば笑え。
所詮、この世になぞ、 嗚呼
意味なんて在りもしない。
のに。
もう一度夢を見ようぞ。 どうか共に。
是は綺麗事であり嘘でせうか。
貴女は僕の贖いを求めているのですか?
足下にひれ伏せ
泣いて赦しを請え。
何もかもが、もう意味等一欠片も持ち合わせていないのに。
僕はただ苦悶している。 何に、 __愚問であろう。
意味も無いのならば神拝しよう。
誰をも救わぬ神を憎もう。
君と歩いた道を歩こう。
夜道を提灯も亡く夢遊病者のやうに徘徊しよう。
淋しく成れば飛翔しよう。見えぬ君と。
嗚呼、君は今頃何を考えてゐる? 違う男のことなど考えてはいないだろうね、
嘘だっていいのだから、僕だけを愛しているのだと永遠に言い続けておくれよ。
夢でだっていいから。
ねぇ。
ねぇ、君。
嘘だろう。
建前の奇人。
偽善の狂詩人。
嘲笑の廃人。
さあ 咲いなさい。
幸せだ。
と。
幻想の幸福。少量の絶望。と、狂喜。
どうか。
嗚呼。誰も僕の目前に現れないでくれ。
見えぬ。
世界は僕と君だけでなくてはいけない。
嘘など在ってはいけないのだ!
全て消え去ってしまう。
嘘も本当も。
嗚呼。
さあ早く。早く咲いなさい。
偽善者の英雄。
嘘つきの聖者。
支配者の贖い。
咲え。 若しくは消え去るがいい。
疵が崩れる前に。
僕は何処にいますか?
教えて。幻想の色が消える前に。
見えなくなる前に。眼球が潰れる前 に。
夢 だ。
世界が嘘で染まっても、僕と君とは本当でせう。
其れとも 其れこそが。
嘘?
咲うがいい。 嗚呼。
一時の夢を見せよう。
嘘を虚飾しよう。
世界を咲おう。
君は帰ってきますと言いました。
僕は待ち続けねばならないのですよね?
この手紙は君に届くだろう。
僕のいない生活は君もさぞ辛かろう。
涙を流してはいけませぬよ。 血もです。
あ。 あ、 嗚呼。 駄目だ。
文士だなど、肩書きなど何の役に立とうか。
長い夜は君なしの僕を酷く酷く狂わせるというのに。
然様なら。
書いては破り、破いては書く。
“拝啓 お元気ですか。”
恋する51のお題 15:長い夜
(06.05/01)