青い空が疎ましく思う。

照りつける陽の光を避けたいと思う。



そんな日が、あったりする。

そんな日も、あったりする。








青の歌








青い空、同じく蒼く深い海。

照りつける太陽に、白い雲に、冷たい砂浜。

打ち寄せる波も、冷たい。


「ヒューのばっか野郎」


ぽつりと呟く声も、波の音にかき消されるだけ。

どうして思い出すだけだと言うのに、あたしは此処に来たのだろう。

ふと視界に入った、満開の桜の木を見つめる。


春、だと言うのに。

世の変質者やカップル共が浮かれる、春が来たというの、に

「何で一人なのかね、あたしは」

ちょうど一年前、やっぱり桜の花が満開の中 彼奴があたしを此処に連れてきてくれた。

海に行きたい、と。勿論“今年の夏に”という意味だったのだが、

せっかちなその恋人は、あたしが言うが早く此処へとバイクで連れてきた。

まだ春だし寒いし泳げないんだから来ても意味がないと少しあたしは怒ったけど、

普段仕事ばかりしてる彼と、一緒に出かけられて嬉しくないはずもなく。


でもまさか、来年の春を一人で迎えることになるとは思っていなかった。

本当に。全く。

想像すらつかなかった。


空が青い。海も。

冷たい水は無視して、サンダルを脱いで海へと入る。

膝が浸かる程の処まで行くと、視界の中は、全部青だけに染まる。

ヒューの色だ。全部。


あたしを見つめる、あの蒼い眼を思い出して、やっとあたしは君に振られたんだと実感した。

あの日から君のあの優しい眼が向けられるのはあたしの知らない人。

あたしに非があったのかは分からないけど、失ったモノはあたしにとって とてつもなく大きい。

君はあの日ごめんと謝り悲しそうな顔をしたけど、ああする以外に何か良い方法があったとは思えない。

少なくとも君は、自分の思いを隠してあたしと付き合い続ける事ができる程器用な人間ではないだろう。

だからあたしは、君を責めたりはしない。少なくとも直接そんなこと言ったりはしたくない。


「偽善者、か。あたしは」


自身を嘲る言葉さえ、海は呑み込む。

きっと言えないだけだ。

優しいのか、意地悪なのか。





失った想い。

届かない言葉。

月並みですが、どうか幸せに。


何時か君があたしに言った、告白の言葉が嘘ではないなら

それで良しとしよう。


この短い休みが終わって、また学校で君に会ったら、

綺麗な思い出をありがとうと言おう。












(05.03/28)