IN 合コン










「ただの人数合わせでしょ?違う子誘いなよ」

「そうだけど。みんな都合悪いって言うんだよ」

「まぁ用事はないけどさぁ....」

「マジに頼む!殆ど普通のカラオケと変わんないから、な?」

両手を合わせてリュータは必死で私に懇願してくる。

馬鹿みたいだ そんなものに必死になるなんて。

「......分かった。ただし私はカラオケで歌うだけだから」

「有難う 超愛してる!!」

「お前問題発言をノリですんなよ」

第一そんなに仲が良いわけでもない私にこんな事を頼んでくるなんて

よっぽど切羽詰まってたんだろうか。

合コンなんてした事ないけど

まぁ私の目的は彼氏とか作る事じゃなくて歌う事だから良いや。



そう要すると私は、

合コンを舐めていたのですよ。










そこに集まったのは男女各五人でした。

私が知ってる人は、リュータとキャロちゃんだけだ。

あとは皆知らん人ですね。同じ学校の人もいるんだろうけど。

一言で感想を述べると、みんなチャラそうですな。人を外見だけで判断するのもアレだけど。


しかし一人だけ例外がいた。

なんだその格好は。趣味なのか。趣味なんですか。

『彼』は、他の奴と同じ学ランを着ていた。

それだけなら何にも問題ありませんね。普通の学生です。

そして眼鏡で学生帽を被っている。

まぁ学生帽とか今時あんまりいない気もするけど其れ位ならまだアリ。

まだ秋なのに紺の長いマフラーを巻いていて、足元は下駄。

帽子も眼鏡もマフラーも着けている訳だから、顔は殆ど見えない。

何処にでも変わった人っているもんだ。

あ、あと極めつけは下駄ね。

だとしても彼が合コンに参加したがるような人間には、私には見えなかった。


カラオケに入ると、みんなそれぞれ目当ての人に話しかけたりしだした。

正直私はこういうのは苦手だし、実は人見知りとかもするから周りは無視して曲を入れた。

所詮私はただの人数合わせの為に来させられただけだから、

全体的に見て明らかに他の女四人よりずっとルックスは悪い(あ、自分で言ってて悲しくなってきた)

「ナカジー、カラオケだし中なんだから帽子くらい取れよ」

同じ学校の男に言われて紺マフラーの奴は帽子を取る。

ナカジとやらの髪は真っ黒で、

それに眼鏡も加わり真面目学生っぽい雰囲気が醸し出されてる(気がする)。

彼も人数合わせだろうか。

私が入れた曲のイントロが始まったから、

遠くにあるマイクを取ろうとしたら彼が取って渡してくれた。なんだ結構良い奴じゃん。

一瞬目が合った気がして礼を言ったんだけど、無言で視線を逸らされた。やっぱ前言撤回したい。


暫く歌ったり騒いだり一部の奴は呑んだり(未成年なのに)してたら、急に誰かがこんな提案をした。

「王様ゲームしようぜ!!!」

王道か。王道だな。

言いだした男が割り箸を取って番号を書き始める。

誰も賛成していないが否定もしていないので本当にやるらしい。

みんな次々に割り箸を引いていく。

ぶっちゃけ面倒だなぁ こういうの。

「あ、俺王様ー」

さっきナカジに帽子を取れと言った男が嬉しそうに言って悩み始める。

選ばれたらどうしよう。

その場合はせめて女相手であって欲しい。

「んじゃねぇ、六番と十番。

 キスしろ」

さも面白そうにそいつは言う。

ちくしょう合コンなんて大嫌いだ。

もうどんだけ頼まれても絶対来ない。

目の前にある私自身が選んでしまった割り箸を呪った。

雑な字で、6 と書いてあるそれを。

「............6番私です」

じろりとリュータを睨み付けてやると、瞬時に目をそらされた。

後で覚えてろ。

「10は?」

せめて女でありますように!

更に欲を言えば申し訳ないけどできればキャロちゃんでありますように!!(一応友達だし)

王様役のそいつが隣に座る冴えない眼鏡の手の中を覗き込む。

「あ、10番ナカジじゃんよ」

無言でナカジはこくりと頷くと、私の方を見た。

カミサマって意地悪ですねー。某Mさん。

私のファーストキスはこの眼鏡くんに持っていかれます。

ララバイ私の純潔。


眼鏡くんことナカジが私の前に立った。

彼が猛抗議でもしてくれれば少しは助かるかもしれないのだけど、彼は何も言わなかった。

そりゃ確かに面倒なことを言って面倒なことになるのも私自身ごめんだ。

顔の下半分を隠していたマフラーを緩めた。

ああマフラー外せば結構 格好良いんじゃんとかそれどころじゃないですね。

なんでこんな事になっちゃったんだろうとか思うけど、要はのこのこ来てしまった私が悪いんです。

私がどんな顔をしてたのかは自分じゃ分かんないんだけど

多分かなり嫌そうな顔をしていたんだと思う。

ごめん と彼の口が動いた気がした。

彼の細い手が私の肩を掴む。

力は籠められてないから痛くなんかないけど怖い。とにかく怖い。

彼が少し屈んで、顔が近づいてくる。

王になった奴を憎んでも誘ったリュータを憎んでも今更遅い。

もう誰でも良いから助けてとかぐちゃぐちゃになってる頭で思ったら

何時の間にか彼の顔がすぐ目の前にあって、彼は目を閉じてたから目は合わなくて済んだけど

あと三秒もせずにされるとか当たり前なんだけど顔近過ぎとか

とにかくどうしようもなくて私も思い切り目を瞑った。

実際三秒も待たずに彼の唇が私のそれに触れた。と思った。

次の瞬間その感触は離れていて、私が驚いて彼を見上げると彼は不機嫌そうな顔で数分限りの王を見ていた。

何人かの男がからかうような声を上げたが、彼は気にせず元いた処へと戻る。

一瞬目が合ったけど、彼は何も反応しなかった。

リュータを見ると目が合って、申し訳ないと言いた気に手を合わせていたが、

なんかもう怒る気力もないからそのまま目を逸らしてやった。

ちょっと是は経験のない私には刺激が強すぎた。

例えキスされたのが口でなくても、だ。

どうやら気を使ってくれたらしく(はたまた彼自身が嫌だったのか)彼は王の目を誤魔化す様に

ギリギリ口の脇にキスしてくれた。らしい。

ああ意外と気が利くじゃないか。

それともそんなに嫌だったのか。

其れも其れで女としては傷つきますけど。

とにかく私は純潔を守りきれたようですよ神様!

とか言っても別に神様のお陰でもないけどね某Mさん。

この眼鏡くん いや、ナカジくんの気遣いのお陰ですけどね!


結果オーライではあったものの、完璧に歌う気を喪失した私は、

とりあえず後は皆がワイワイ騒ぐのを傍観していた。

なんでこんなのに はしゃげるんだろう。

私には最近の若者が理解できません....!!




「んじゃ、ここら辺でお開きにするかー」


時計が十時近くになった頃に、漸く私はこの部屋から開放された。

幸運(なのか?)にも、その後の王様ゲームでは、私が指名されることはなかった。

地獄だ。私にとっては。










すっかり疲れきって、家の近くの駅までの切符を買う。

軽快な電子音が鳴って、券売機から切符が吐き出される。

隣りからも同じ音。

そりゃあそうだよ違う音がしたらおかしいよ。そんな音に拘る人いないよ。

なんとなく目をその音の方へと向ける。

すると見覚えのある紺マフラー。

「あ」

二人の声がハモる。

あんまり私の家の方向から学校に来る人はいなくて、通学時も学生はあんまりいなかったりする。

どうやら同じ方向、らしい。なんて憶測を立てても仕方ない。

「えーと、もしかして同じ方向だったり、する?」

これで違ったら恥ずかしいなあ、なんて思いつつ訊いてみると

ナカジくんは私の切符を見て、無言でこくりと頷いた。

ちなみに他の人たちは、

気に入った相手がいたら一緒に何処かに行ったり(何処に行ったのかは彼らの自由だし想像に任せます)

とりあえずアドレスだけ交換したり、私には理解できんがいきなり告白したり

まあ様々なのですけど、私は毛頭そういうものには興味もなかったので(何度も言いますが)

終わって早々に帰路に着いていたのである。

少し考えてみれば分かるが、彼もそうだろう。

だって最初思ったとおり、やっぱり合コンなんてしそうなキャラじゃない。し、似合わない。


特に何か話すでもなく、成り行きで彼と同じ電車の、同じ車両になる。

いくら仮とは言っても、あんなのだって人にされたことなんてないんだから、照れる。

それは彼も同じなようで、少し気まずい雰囲気を二人とも何処と無く醸し出していたのだと思う。

「........あの」

唐突に、しかもナカジくんの方から話を切り出す。

少し驚きながらも、応える。

「さっきの........ごめん」

さっきの、というのが何を指すのかはすぐに分かった。

しかし、そうするよう指定したのはあのチャラ男であって、別にナカジくんが謝ることじゃない。

気にしてない、と言ったら嘘だろうが、

正直とても気にしているわけでもない。

「いいよ。いや..良くはないけど。

 別にナカジくんは悪くないし........」

私が許したことか、私が彼の名前を知っていたことにかは分からないが、

彼は少し目を丸くした。眼鏡越しでも分かる驚嘆。

なかなか反応が可愛い。

「ねえ、ナカジくんはどうして合コンなんて来たの?」

「............数合わせ」

「私と一緒じゃん!」

思わず笑ってしまって、少し悪いかな とも思ったけど

バツが悪そうな顔をしながらも、ナカジくんも微かに笑っていたので よしとしよう。



それから駅に着くまで色々な話をして、

ナカジくんはバンドを組んでギターを弾いていて、プロを目指しているんだと知った。

私は将来なんて何も考えていないのに凄い、と私が言ったら

結局失敗したときのことなんて考えてないし 行き当たりばったりだからそんなに変わらないと言われた。

目標があるだけ凄いと私は思うけど。


降りる駅は、ナカジくんの方が二つ後だったんだけど、

夜も遅いから送ろうか、なんて気の利くことを言ってくれて、一緒に並んで歩く破目になってしまった。

その言葉や行為自体は嬉しかったのだが、

駅から出てすぐに、“これはもしかして、傍目にはカップルに見られるんじゃないだろうか”と思って、

気が気じゃなくなってしまったから.........なんというか、

やっぱり嫌ではなかったんだけど。


嫌でもどきどきしている自分を認めざるを得なかった。

悔しい。けど、

久々のこういった感覚が、少し楽しいかもしれない。










「ホンッッッットごめん!!!」

頼んで来たときと同じように両手を合わせて、リュータが謝る。

必死だ。とても必死だ。

多分あの日より必死なんじゃないか。

「本当だよねー」

「なんでもするから!」

なんでも って何だ。

まあ、ある程度罰は考えてきた。

本当を言うと、一生続くような罰にしようとも考えたのだけど、

「昼食三回分。で許そう」

「ええええええええ」

明らかに不満を丸出しにした声を漏らす。

「これで不服!?十分妥協したのよ 本当は残りの高校生活の昼食代全額アンタに払わすつもりで

「お許しいただき有難う御座います!!」

崇めるような態度に急変して、リュータが私に言う。

なんて渡り上手な男だ。別にいいけど。

呆れたものである。けど、とりあえず良かったこともある。



合コンも、悪くないかな。なんて。

二度と絶対したくないけど。












恋する51のお題 38:傍目には

(06.01/09)