収穫はないと言ってもいい。まったくとは言わないが、ほとんど徒労だ。列車の中でがっくりと肩を落としてみたが、あまり落胆もしていなかった。期待していなかったとは言わないが、現実とはこんなものだろうとも思えたからだ。複雑な家庭事情の人間に、初対面からずけずけと家族について質問などできるわけがなかったのだ、最初から。一緒に暮らしていても訊けないと言うのに。

 休暇はまだ四日ある。取りすぎてしまった。どうせバージルは出掛けているので暇だ。休暇が重なったところでなにをするでもないので、同じことと言えばそうなのだが。なんであれ折角の休暇だというのに、少々勿体のない取り方をしてしまった。
 重い荷物を引きずりながら鍵を開けアイムホームと投げ掛けると、静寂が部屋の無人を伝えた。当然ながらバージルが出掛けているらしいことに落胆する。顔が見たかった。しかしいつも通りの無表情な彼に迎えられるのも落胆するだろうので、ただの無い物ねだりだ。笑って迎えられるという選択肢はない。残念ながら。
 疲れたので寝てしまおうかと考えながら荷物を引きずっていたところで、リビングのテーブルが目に入った。正確にはそれに乗っていた紙だ。荷物から手を離して紙を覗きこむと流麗な字が連なっていた。『夕飯の残りが冷蔵庫にある』腹は特に空いていないが品目が気になったのでなにげなく冷蔵庫を開けてみて、瞠目した。
 冷蔵庫に入っていたのは一人分の夕飯だった。焼き魚のソテーにスープにサラダ。すべていつも使う食器に盛られてラップがかけられている。
「これが残り?」
 訝しむと言うよりはずっと楽しげな声色になった。帰りはわからないとは言ったが、少なくとも一泊で帰ってくるつもりはなかった。昨夜彼がどんな顔をしながらこの食事を盛ったのかと考えると、頬が弛んで仕方がない。どうせ仏頂面だったのだろうけれど。
 それから本当に早く帰ってきてよかった、とそう思った。今夜無人のこの部屋に帰ってきた彼がテーブルの上の紙を一瞥してから握り潰して捨ててしまったり、冷蔵庫の夕飯を玉葱の皮やじゃがいもの芽と一緒に捨ててしまうようなことにならなくて。憮然とした顔をしながらそうするバージルは容易に想像できて、紙の上の文字を撫でながら少し笑った。そんなのはきっと悲しすぎる。
 言い様のない嬉しさが込み上げると同時に、いくつかのことについての罪悪感も滲んだ。一番の罪悪感の根源について、説明すべきか隠し通すべきかわからない。しばらくは考えるとして、今は隠すとしても、できることならいずれは話したい。

 旅の荷物をすべて片付けたら、バージル曰く夕飯の残りを食べながら料理雑誌を見て今日の夕飯を考えよう。そう決めて荷物から赤黒く汚れた服を引っ張り出すと、ごみ箱の奥深くに突っ込んだ。



帰宅


(10/02/18)