喧騒。瞬く画面。じゃらじゃら溢れる銀の玉。外は快晴、突き抜けた青と輝き続けるエメラルド。弟の自意識は勝利の灯りであるのやも。にやつく顔を隠しもせずにドル箱へばしゃばしゃ玉を流し込んで、山を積み上げようとした、そこで、指の先が引っかかる。ざばりと毀れた銀の玉はたちまち川となり小さな池を作り出す。ああ〜も〜、どーすんだよこれ! 大仰に悲鳴をあげた松野おそ松が池の畔に這いつくばると、水底からコスプレみたいなパチ屋の制服に身を包んだ美しき少女が現れた。ぱちくり。「あなたが落としたのは銀の玉と金の玉、どちらの玉でしょうか?」にこり。ストライク! バッターアウト!
「落としたのはパチンコの玉だけどさ、それより俺、きみがほしいな〜、なんちゃって」
正直者には福来る。これ旧くより物語における定石也。かくして二人はめでたく結ばれたのであった。毎日十二時の開店に合わせ出かける彼女をキスで見送る。あとはもう夜まで自由。彼女が帰ったらおいしいご飯を2人で食べて、セックスして、ひとつのベッドでじゃれあいながら眠りに就く。間違いない、ここがユートピア。彼女は美しく、優しく、彼の非を追及しなかった。彼が自らの現状を話したことはなかったが、毎日仕事へも行かず、彼女の部屋に入り浸り、金をせびる男の正体など知れていることだろう。それでも彼女はお小遣いほしいな〜、と小学生のようなあどけなさで言い放つ成人男性に、しかたないなあと笑って五千円札を握らせてくれるのだ。こんな話はありえない、新手の詐欺か宗教だな、あたりは簡単につけられて、だから諦めるのも簡単なのだ。彼女の部屋を出て、あたりをぶらつく。頭上には相も変わらず巨大な緑の太陽があって、家を出てもあの兄弟らの確かな実在を彼へ訴えているかのようだ。トップでありスタンダードでありニュートラルである頭をなくして、彼らは今どうしているのだろうか。ふと、ポケットにつっこんだ指先にこつりと飴玉のような感触があった。取り出してみればなんのことはない、しなびた哀れな自意識だ。かつてはこの天にやかましく輝いている、二番目の弟のそれに勝るとも劣らぬ大きさで、眩いものだった。けれど今は見る影もない。自ら叩き潰したのだ。
パチンコ店なんて腐るほどあるというのに足は無意識に慣れた店へと向いていて、彼女の働く店の前に気がつけばぼんやりと立っている。けれどいまいちハンドルを握る気分じゃない。ハンドルよりも彼女のおっぱいをくりくりするほうがよほど楽しいと知ってしまったからだ。ならば馬か? 船か? まぬけな顔で動かぬ頭をゆらめかせていると、ドル箱を持った彼女がガラス張りの向こうを早足で歩いて行く。目が合って一瞬、歯を見せて笑った彼女が小さく彼に手を振った。あとでね。口の動きで伝えレーンの向こうへ消えていく。跳ねた茶色のポニーテールを胸がつまりながら見送って、うまく振り返せないまま中途半端に持ち上げた右手に気がつく。左手は自意識を握りしめたままだ。諦めるのが簡単だなんて嘘だ。彼女の欠けのない慈愛は松野おそ松へ惜しみなく注がれるもので、詐欺でも宗教でもない。それにこんなに好きなのに。トト子ちゃんと同じくらい可愛いのに。
おまたせ、とすぐに私服の彼女が現れて、彼の浮いた左手を取る。さらさらして細くて小さくて冷たい手。「■■〜」次いで自動ドアが開き男が顔を出す。同じく店員らしい男は彼女へ忘れ物を手渡して、ちらとおそ松を見るとカレシ? と問う。そ〜なんですと言葉は簡単に滑り出て、どうでもいい挨拶と共に握手なんかしちゃったり。「え〜知らなかったな〜、カレシさんはなにされてるんです?」ニートだよ! 今度は言葉は転がり出ずに喉の奥へとはりついた。笑みだけ虚ろにへばりついたままだ。左手の中、握りしめたものが僅かに蠢く。それを握り潰して、もう一度慎重に息を吸った。以下CM。
十分女神とニート
(16/02/21)
夢松 制限覆面企画様に制限「一人称禁止」にて参加させていただきました。