一期アニメ七話あたりを観てうんぬんかんぬん



 織田軍九州制圧の報を聞いてか、長曾我部軍が同盟を申し入れてきた。順当に考えて織田が次に迫るは安芸、次いで土佐。或いはその逆。此方も焦っているだろうと予測しての申し入れとは、獣にしては考えたほうだと褒めてもやろう。その予測が当たっていたならば。
 確かに、長曾我部が織田とぶつかれば勝算は如何にぞや。しかし此方はどうか。兵力は引けを取らぬ、あちらには優秀な参謀が居るともなし。あれは魔王の存在のみに因って成り立っていると言っても過言ではない。されどこれまで魔王を止めた者が居らぬこともまた事実であり、土佐を織田に制圧されては厄介であることもまた同じ。東西のみならず南も加え三方向から攻められては分が悪い。万一のことがあってはならぬ。乳首の鬼と組むのは不本意だが、そう損になることもあるまい。あわよくば弱らせ食らうことも出来るやもしれぬ。とすればなかなかに美味しい話とさえ言える。
 直ぐに文を認め土佐へ遣った。協定の日取りが決まり、四国へ赴くこととなる。こうした際、やはり自国であったほうが有利であろうことはまず間違いない。慣れぬ環境、知らぬ土地や人、敵陣の只中で命を狙われるやもしれぬ恐怖、緊張。どれも不利に働こう。しかし環境が、土地が、人が、一体どう関わろうか。我のなにを害そうか。なにより、あやつは我を殺さない。
 仮と言え長きに渡った対立の終焉の夜にしては、然したる感慨もなく、静かだ。話はとんとんに進み明日明後日にも正式に判を押せるように思えた。祝宴の席が設けられていたようだが騒がしいのは好かぬと言えば「そうか」の一言で取り止めになる。非礼な我の物言いに長曾我部の家臣だけでなく此方の者さえどよめいたが、当の長曾我部だけは平然としていた。随分あっさり退いたものだと意外に思えば、これだ。いきなり声を掛けてきたかと思えば返事も聞かずに障子を開き、銚子と猪口と中途半端な笑みを携えている。ちらと背後へ目を走らせるが共は居ない。天井裏まで見る気にはなれないので一人だと言うことにする。
「飲もうぜ」「断る」
「つれねえなあ」言いながらも、とぷとぷと酒を注いでさあと言わんばかりに突き付けてくる。反射的に一寸ばかり上体を退くが猪口の位置は変わらない。
「疑ってんのか? なんも入ってねえよ、ほら」
 一口舐めて見せて、な、と同意を求めてくる。そんなものどうとでも出来ると反発しかけ、止めた。くだらん。どうせ出来たとしてしないのだ。?ぐように猪口を奪い「貴様その浴衣と眼帯、全く合っておらんな」毒を吐いてやると、わっと頬を染め直ぐ様文机の前の蝋燭を吹き消した。「おい」女子か。
「どこに仕舞ってあんのか知らねえんだよ」下女にも忍んで来たらしい。そのくせ酒の在処は知っていると言うのだから呆れる。
「字が見えん」
「大体こんな所に来てまで書を読むかあ? 普通」
「我が読んでいる」
「知らねえなあ」
 余程癪に障ったらしく馴染みの眼帯を外しているようだった。乳首の露出や全身真紫の衣装は好いと言うのだから基準が極めて不可解だ。目が慣れても月が細いので辺りは暗かった。自然、警戒心が高まり肌が騒めく。
 近くの大きな影がのそりと立ち上がり緩慢な動きで縁側に出た。どっかりとそのまま腰掛けぐいと酒を煽る。来いと言うように此方を見るのでどうせなら日頃隠している左目の正体、いざ見てやらんと目を凝らしたが適わなかった。知りたいというわけでもない。わざわざ動くのも億劫。「餅もあるぜ」そう言われれば致し方ない。のろのろと立ち上がり一間も空け腰掛けた。「あんたそりゃ遠いだろう」黙殺する。
 夜風が心地好い。持ったままだった酒を口に含む。酒は余り嗜まないがなかなか上等なものであるようだ。ゆらゆらと波立たせた透明な水面をぼうと眺めながら、暫し互いに無言で座す。
「餅」
「ほい」
 思い出したようにぼそと呟けば、間にことりと皿が置かれる。少々無防備過ぎるかと思いながらも身を乗り出し餅を取った。咀嚼し、慣れぬ味だと思う。可も不可もない。
 二つ目に手を伸ばし、一口齧り中身が同じで落胆した。そもそも我は餡子よりわらび派よ。この機に心得さすべきか。
「なあ、あんたなにを企んでる」
 珍しく静かな声音に少々驚いた。もう一口齧り、ゆっくりと三度噛んで飲み込む。
「穿つな。なにも企んでなどおらぬわ」
「企んでる奴に限ってそう言いやがるんだよな……」
「ふん、少しは知恵が付いたか」
「やっぱ企んでんじゃねえか」
 何度となく干戈を交えた仲、下手な部下より互いを知っているのだろう。我を智将と呼ばしめる采配の数々を自らの肌で知るも此奴だけと言ってしまっても過言ではない。陶も尼子も今や過去の人間である。
「企んでいると思うのなら精精油断せぬことだな。元より共闘しようと貴様の背を支えるつもりは無い」
「あんたに背を預けるたあ笑えねえ冗談だぜ」口では言いながらも声を上げて鬼が笑う。それに合わせて夜の空気が震えていた。異国だ、今更のように思う。
「俺の納得した策でなきゃ俺の部下は預けられねえ」「……我に頭で勝てると思うか、獣よ」「あー……そこんとこはそういうの強い奴にも手伝って貰うわ」「片腹痛し」「俺の部下を捨て駒としては使わせねえ」「貴様、あれが無駄死にと本気で思うか。目出度き頭ぞ」「……いや、」「そのような頭は飾りにもならぬ、早々に?いでしまえ。この地は我が貰い受けよう」「誰がやるか! これでもここにはたっくさん大事なことがなあ」「そうか」
 面倒になって短く返すと今にも飛び掛らんと身を乗り出していた姿勢のまま長曾我部は止まった。なにがしと文句を垂れながら再び足を組み座り直す。それを尻目に猪口の残りを一息で飲み干した。






(09/06///)慶次の存在を忘れていたのでそのあたりは十三話にまかせます。