#bsr_trip

 喜助さんがいっとう気に入ったのはむにゅむにゅとした手触りが妙な青いグリップのシャープペンシルで、それを対価にわたしは彼と道を共にすることとなった。最早二度と新しく手に入ることはない物品たちである。出し惜しみに出し惜しみを重ねたにしろ、こうも安価に済むとは思わなかったので幸先のよい旅立ちと言えるだろう。  喜助さんは四十間近の旅商人であるが、武士の家の出で学者を志したことがあったと言う通りに好奇心が旺盛だ。どこまで本気にしているのかは知らないが、わたしに様々なことを訊ねては楽しそうに話を聞いている。あまりに楽しそうに、そして矢継ぎ早にそれはどうなっているのか、これはどういうことなのかと問うてくるのでひとつひとつへ丁寧に答えているだけであっという間に旅の時間が過ぎていく。それが果てなき道中では至上の暇つぶしとなるのである。わたしが話した分と言うには足りないが、喜助さんもまたよくこの世界のことをわたしに教えてくれた。  農民として生きていくのは難しい。元の世界へ帰る方法を探すには人や情報の出入りの多い世界で暮らすのがよいだろうと、




 →


(12/12/04)